機械翻訳+ポストエディットは翻訳者の作業を奪えるか

今日、世界中でテクノロジーが絶えず進歩し続けていることにより、さまざまな分野、職種における人間の労働が機械に置き換えられるようになっています。翻訳業界においては、特に翻訳アプリがどのスマートフォン(携帯端末)でも使えるようになって以降、機械翻訳が人間の翻訳者の作業を代行できるかについて思索することが容易になりました。しかし、機械翻訳がどれほど進歩したと言っても、現状は、人間の翻訳者と同程度の能力を獲得するまでには克服しなければならない課題が山積しています。

それらの課題の幾つかをご紹介します。

文化的ニュアンスの翻訳

機械翻訳が人間の翻訳者と同レベルに達するためのハードルの中でも最も難易度の高いもののひとつは、言語の人的要素、特に文化的ニュアンスへの対応でしょう。翻訳プログラムをいかに洗練しても、慣用句や冗談といった特定の文化的要素の意味を完全につかみ取ることは難しいです。

例えば、日本語は文化と社会規範に深く根ざした言語であり、日本語の表現を効果的に伝えるためには、文化的背景が必要とされることが多々あります。機械翻訳は簡単な言語の書き換えはできますが、機械翻訳では日本語のニュアンスが失われがちです。

コミュニケーションにおける文化的背景は正確な翻訳に欠かせません。そこには文化を理解した人間による翻訳作業が必要なのです。

言語の進化と言葉の変化への対応

言語が進化し続けているのと同時に、新しい言葉や言い回し(フレーズ)が日々生み出されています。さらに、時間とともに言葉に新しい意味が加わったり、かつてと同じ意味では使われなくなったりもします。確かに、機械翻訳に新しい言葉(単語)、言い回し、意味を取り込むようにプログラムすることはできますが、人間の翻訳者はこれらの変化に自然に、かつ柔軟に対応し、比較的容易に状況に応じた翻訳することができます。

適切な言葉の選択

世界で使用されている主要な言語はどれも膨大な単語を有しています。例えば、フランス語の辞書LAROUSSEには約135,000語が、日本語の日本国語大辞典〔第2版〕には50万語が収録されています。さらに、ひとつの語が別の意味を有すること(多義語)もあるので、翻訳者は的確な言葉の選択に苦労したりするのです。一例を挙げると、スペイン語の「intoxicado」は酔っ払った人を示すことがほとんどですが、中毒にさせられる/中毒を引き起こすといった別の意味で使われることもあります。機械翻訳は、その語がどの意味で使われているのか、文脈を正しく読み取れない場合があるのです。

人間の介入が必要な分野

医学や法学など特殊な分野では特に、その分野を熟知し、機械翻訳には理解できない特殊な言い回しや専門用語を把握している翻訳者の介入が不可欠です。これらの分野の言葉は、機械翻訳が認識しているものとは異なることが多々あり、重大な間違いにつながりやすいからです。さらに言えば、機械翻訳のプログラムは、その言葉が特殊な分野における独特なものであると解釈することすらできていないかもしれません。

また、医学分野では、翻訳のミスが重大な問題になりかねないため、人間の翻訳者が翻訳プロセスに介入することが必要です。医療機器を理解することから、命の危険を伴う危機的状況を生き延びることまで、医療分野におけるさまざまな局面で、完璧かつ正確な翻訳が必要とされ、機械翻訳ではそこまで対応しきれないのです。

医療業界に加えて法律関係も非常に高度で専門的な知識を要する分野です。法的要求事項は、さまざまな分野や領域に及び、新しい法規や法律の成立にともなって変わっていくので、翻訳プログラムでは正確な情報伝達に困難をきたすことになるかもしれません。反対に人間の翻訳者であれば、非常に微細な法的細目であっても、確実に専門的な翻訳を行うことができます。

機械翻訳+ポストエディットは課題克服につながるか

機械翻訳が翻訳作業における重要な点に対応しきれていないにせよ、機械翻訳にはたくさんのプロジェクトの大量のコンテンツを、コストを抑えつつ効率的に翻訳できるといった複数のメリットがあることも確かです。人間の翻訳者に依存しつつも機械翻訳のメリットを生かす実現可能な策は、ポストエディットを実行することです。

ポストエディットを導入し、知識のある編集者が機械翻訳したテキストの校正と編集を行うことで正確性を確保するだけでなく、文化的要素、適切な語彙選択、専門用語やその他、さまざまな部分で正確な翻訳が行われているかの確認を行います。

機械翻訳が人間の翻訳者による翻訳の質に到達するには、まだまだ時間がかかりそうだとは言え、短期間で大きく進展してきています。言語ペア(翻訳する言語の組み合わせ)によっては、他の言語よりも簡単に人間の翻訳者に近い翻訳を出すことができるものもあります。例えば、スペイン語と英語のペアの翻訳は、日本語と英語のペアの翻訳よりも簡単でしょう。しかし、どんなに技術が進歩しても、人間のコミュニケーションの本質的な部分を確実に伝えるためには、翻訳作業に人間が介入することが常に必要とされるでしょう。

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