スペイン語を制する者は巨大市場を制する?

世界中でビジネスを成功させている企業がいます。どの国に行ってもコカ・コーラ、マクドナルド、GEといった大企業の製品を見かけると思いますが、これらの大企業はどのように世界中に自社製品を展開することができたのでしょうか。

各企業は、ターゲットとする国々の地域特性に合わせた「ローカライズ」を行うことで成功を収めてきました。一般的に、物事を展開先の地域に適合させること、局在化あるいは局地化を意味するローカライズという言葉は、いわゆるIT業界におけるコンピューターソフトを現地語環境に適合させることから、あらゆる製品やサービスを世界市場に展開させる際に、製品やサービス、さらには関連コンテンツ(ウェブサイト、動画、販売資料など)をターゲット市場の言語、文化、技術的要件に適合させることにまで広義に使われています。同様に、翻訳業界におけるローカライズにも、単なる現地語化(言語の置き換え)から、異なる言語圏のユーザーが製品/サービスを問題なく理解・使用できるようにすることまで、言語の訳出以上の仕事が求められます。

グローバル市場を視野にビジネスを進める場合、もちろん個々のターゲット市場の言語に応じたローカライズが必要ですが、この言語を押さえておくとよい―という言語もあります。そのひとつがスペイン語と言われているので、今回はその理由を考えてみます。

世界に広がるスペイン語+話者数の増加

キリスト教系の言語研究団体である国際SILが公開しているウェブサイトEthnologueに記された言語に関する統計によると、話者数の多い順に1位が中国語、2位がスペイン語、3位が英語となっています。話者数では中国語に大きく離されていますが、スペイン語は多くの国で公用語とされています。公用語としている国の多さで言語を順位付けすると、1位は英語(59ヶ国)、2位はフランス語(29ヶ国)、3位はアラビア語(27ヶ国)、そして4位にスペイン語(21ヶ国)が入ってきます。ここで中国語は13位(3ヶ国)です。確かに英語が世界の共通語となっているだけあって、公用語とする数が多いのは分かりますが、米国のように公用語は英語でもスペイン語話者数の多い国もあるという点にも注意が必要で、世界中で4億を越える人がスペイン語を使っているとされています。スペインや南米などのスペイン語圏で話者数が多いのはもちろんですが、米国には5200万人(人口の約23%)ものスペイン語話者がおり、2050年までにスペイン語を母語とするヒスパニック系の人口が13億2800万人に達するとの予測もあります。既に米国にはスペイン語専用テレビチャンネルもあれば、スペイン語の新聞、書籍などが一般的に入手できるようになっており、場所によっては英語が話せなくても生活ができるほどです。

スペイン語学習者の存在

スペイン語を母語とする人口が多いことに加え、たくさんの人がスペイン語を学んでいます。外国語学習支援サイトのMosaLinguaの記事によると、学習者の多い言語の3位にスペイン語が入っています。米国では、幼稚園の年長から高等学校を卒業するまでの13年の教育期間(日本の高校卒業までに相当)において70%以上の学生がスペイン語を勉強し、さらに大学では50%の学生がスペイン語を選択していると書かれています。蛇足ですが、学習者の多い順で日本語は6位、米国大学における選択言語としては5位。2013-2016年には最も多くの大学生に選択された言語であったことを考えると世界経済や情勢の変化による影響が伺えます。

ネット世界におけるスペイン語

インターネットの世界でもスペイン語が存在感を示しています。統計情報を公開しているStatistaによるインターネットで一般的に使用されている言語のトップ3(2019年4月時点の発表)は、英語(25.2%)、中国語(19.3%)、スペイン語(7.9%)となっていました。以下にアラビア語、ポルトガル語、インドネシア/マレーシア語、フランス語、日本語、ロシア語、ドイツ語と続きますが、この10言語が世界のインターネットユーザーの使用言語の76.3%を占めている状況です。ネットのユーザー数が世界で最も多いことが中国語を2位に押し上げていますが、別の統計(2017年データのまとめ)には、ネット全体の使用率では中国語に及ばないものの、フェイスブックとツイッターに限定した場合にはスペイン語が2位となることも示されています。

ビジネスチャンスの拡大

米国のスペイン語話者数が増加するという将来予測も含めて考えれば、米国でのビジネス展開を考えたときにスペイン語話者の存在を軽視することはできません。また、スペイン語を公用語とする国が多いことは先述しましたが、スペイン語は、スペインはもとより北米・中米・南米の国々で話されている言語であり、これらの地域の国の多くはまさに経済発展中です。一方の中国語の話者は、中国と台湾、香港といった国・地域の居住者、または東南アジアなどの国々に居住する華僑(在外中国人)がほとんどです。よって、これら2つの言語の話者の置かれている状況はかなり異なっており、話者数は圧倒的ながらも限られたエリアで話されている「地域言語」である中国語に対し、より広域で話されているスペイン語は「国際言語」であるとも区別されています。この差は、ビジネスにおいて大きな違いを生みます。さらにインターネットを通してビジネスを展開することを考えれば、使用者の多いスペイン語圏の市場を狙うこともできます。スペイン語圏に経済成長率の高い国が多数含まれていることと合わせて、将来のビジネス展開につながる可能性は高いと予想されます。

近年は、日本企業がスペイン語圏の新興国に進出するケースも増えています。ビジネスシーンにおけるスペイン語への注目は今後も続き、それにともない、スペイン語翻訳/ローカライズの需要は高まりそうです。スペイン語が「押さえておくとよい言語」と言われる潜在的な可能性のある言語であることは間違いなさそうです。

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