医薬・治験文書の翻訳はなぜ専門家が必須なのか|誤訳が招くリスク事例

新薬の開発は、もはや一国だけで完結するものではありません。複数の国・地域で同時に臨床試験を進める「国際共同治験」が主流となる中、治験関連文書や申請資料の翻訳は、開発スピードそのものを左右する重要な工程になっています。

しかし医薬・治験分野の翻訳は、誤訳がそのまま患者の安全や薬事承認の可否に直結しかねない、極めて専門性の高い領域でもあります。本記事では、国際共同治験の拡大データをもとに、医薬翻訳においてなぜ専門家による確認が欠かせないのかを整理します。

国際共同治験は治験全体の6割弱に拡大

医薬産業政策研究所の調査によれば、日本国内の治験計画届件数は2011年度の124件から2020年度には450件へと10年間で3.6倍に増加し、年平均成長率は15.4%にのぼります。このうち国際共同治験が占める割合は2020年度時点で57.0%に達しており、単独の国内治験よりも国際共同治験の方が主流になりつつあることがわかります。

同調査では、国際共同治験におけるフェーズ別の変化も報告されています。開発の初期段階にあたるPhase1・1/2の割合は、2010年の180試験から2017年には299試験へと約1.7倍に増加しました。従来は承認直前のPhase3から国際共同治験に参加する形が主流でしたが、近年は開発の最初期段階から日本を組み込んだ国際共同治験として設計するケースが増えています。これは、治験関連文書の翻訳対応が、開発プロジェクトのごく早い段階から必要になることを意味しており、日本の製薬企業・CRO(開発業務受託機関)にとって、多言語での文書対応は避けて通れない業務になっています。

なぜ医薬翻訳にAI任せきりは危険なのか

治験実施計画書(プロトコル)、症例報告書、副作用報告書といった治験関連文書には、独自の略語や、一般的な医学用語とは微妙にニュアンスの異なる専門表現が数多く含まれます。AI翻訳は日常的な文章では高い精度を発揮する一方、こうした業界特有の専門用語や、社内でのみ通用する略語の翻訳を苦手としており、医療分野では誤訳がそのまま患者の健康リスクに直結しかねません。訳語の選択を一つ誤るだけで、投与量や禁忌事項の解釈が変わってしまう可能性もあるため、最終的な確認と修正を人の目で行う工程は省略できないのです。

加えて、同じ薬剤名や検査項目名であっても、各国の規制当局が定める用語集や表記ルールに準拠する必要がある点も、医薬翻訳特有の難しさです。汎用的なAI翻訳エンジンは、こうした申請先ごとの表記ルールまでは考慮していないため、規制当局への提出文書としてそのまま使えるとは限りません。

治験文書だけでなく患者向け文書にも同じリスクが

国際共同治験では、医師や規制当局向けの文書だけでなく、患者に治験内容を説明し同意を得るための説明同意文書(インフォームド・コンセント文書)も各国の言語に翻訳する必要があります。ここで表現が難解すぎたり、逆に簡略化しすぎて重要なリスク情報が抜け落ちたりすれば、患者が内容を正しく理解できないまま同意してしまう恐れがあります。医療・ライフサイエンス分野の翻訳では、専門用語の正確性と同時に、読み手に応じた分かりやすさの両立が求められる理由はここにあります。

実際の事例として、製薬会社Sanofi社のCIOMSフォーム(副作用症例報告様式)を24時間以内に翻訳・納品した事例のように、規制当局への提出期限が厳格に定められている医薬翻訳では、正確性とスピードを同時に満たせる専門体制の有無が、開発スケジュール全体にまで影響します。

まとめ:医薬翻訳はスピードと正確性の両立が前提

国際共同治験の拡大により、医薬翻訳の需要は今後も増え続けると見込まれます。一方で、この分野の翻訳は一般的なビジネス文書とは異なり、誤訳の許容範囲が極めて狭いという特殊性を持っています。開発初期のPhase1・1/2から国際共同治験として設計されるケースが増えている以上、翻訳体制の整備は開発計画のごく早い段階で検討すべき課題だといえます。AI翻訳による効率化を取り入れつつも、専門知識を持つ翻訳者による最終確認を欠かさないという姿勢が、患者の安全と開発スピードの両方を守ることにつながるでしょう。

医薬・治験文書の翻訳を検討している方は、専門性の高い翻訳会社への相談をおすすめします。

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