落とし穴だらけの字幕翻訳・映像翻訳

世界での動画再生時間が飛躍的に伸びる中、視聴者を取り込む上で字幕翻訳・映像翻訳の重要性も高まっています。本来、字幕とは動画の中で使われている言語を理解できない視聴者のために、会話やナレーションを翻訳して文字情報として表示するものですが、その言語を理解できる視聴者にも広く受け入れられるようになっています。今や字幕は、動画再生数を伸ばす上で欠かせない要素なのです。

字幕が必要とされる理由

字幕が必要とされる理由のひとつは、オリジナル言語では内容がわからない視聴者にも動画を楽しんでもらうためです。字幕がなければ、その動画はオリジナル言語以外の視聴者の検索にヒットしないでしょうし、言葉が分からなければ動画を見続けてもらうこともできません。

また、字幕は検索エンジン最適化(SEO)においても重要な要素です。字幕があることで、検索エンジンが動画の内容を読み取ることが可能となり、特定のキーワードに基づいたランキングでも上位に表示されるようになります。検索エンジンは映像ではなく、字幕の中の単語を含む動画に関連する文字情報を認識するため、字幕の有無がSEOに影響を及ぼすことになるのです。映像翻訳会社は、SEOに配慮した字幕を作成することで、Googe、Yahoo、Bingなどの検索エンジンから動画を見つけてもらいやすくすることも可能です。

残念な字幕翻訳にありがちな問題

視聴者にとって良い字幕とは、正確かつ魅力的で、心に訴えることのできるものです。ここでは、残念な字幕になってしまう主な要因をリストアップします。

  • 意味が伝わらない逐語訳になっている:字幕翻訳でよく見られるのが、全体の流れや文意を無視して、原文を一語一語そのまま翻訳してしまうような逐語訳です。視聴者が映像の内容を理解するには字幕からの情報が頼りなので、字幕が単なる文字情報になってしまうのは問題です。文脈をくみ取って意味を正確に伝える字幕でなければ動画のメッセージが失われてしまうのです。こうした問題を避けるためにも、動画の字幕は、字幕翻訳を専門的に行い、対象言語のネイティブスピーカーがその言語の視聴者に自然に受け入れられる訳文に仕上げてくれる翻訳会社に依頼するのが望ましいでしょう。
  • 句読点を使用している:字幕に句読点が付いていることの何が問題?と思うかもしれませんが、日本語字幕に句読点は使いません。また、視聴者は文字を追いながらも映像に集中したいものなので、字幕はできるだけ映像の邪魔にならないように表示しなければなりません。下訳翻訳の原稿がある場合には、字幕に入れ込むとき、句読点を消すなどの調整が必要になります。感嘆符や疑問符は使用できます。字幕は動画の中の会話を表現するものなので、話者の意図と感情を伝えるために付けることはできますが、付けすぎや不適切な位置への挿入はいただけません。また、英語字幕の場合は文末にピリオドを付けるようにすべきであったり、言語によって句読点の有無、字幕独特の付け方やスペースの使い方がありますので、注意が必要です。
  • 読みにくい:字幕の必須条件は、視聴者にとって読みやすいことです。文字は読みやすいサイズと色にしつつ、背景の映像の邪魔にならないようにしなければなりません。字幕を目立たせようとしすぎると失敗することになります。さらに、動画がさまざまなサイズの画面で再生されることも考慮する必要があります。
  • タイミングがずれている:悪い字幕の一例としてありがちなのは、話者の台詞と字幕のタイミングがあっていないものです。タイミングを合わせるため、それぞれの字幕と音声をチェックし、フレーム単位で調整する必要があります。字幕制作会社は、適切なタイミングで字幕を挿入することができるソフトやアプリを使用しています。
  • 機械翻訳で字幕を作成している:機械翻訳では、慣用句や文化的要素に配慮した字幕翻訳はできません。字幕制作には人による作業が不可欠なのです。

動画の音声や台詞を伝える手段

視聴者が動画の言語を理解できなくても、動画の音声や台詞を簡単に伝えられる方法がいくつかあります。主な手段を挙げてみます。

字幕
翻訳されたテキストを画面上に表示し、動画・映像の台詞やナレーションを理解できるようにする。

クローズド・キャプション(CC)
元は聴覚に障害のある人や難聴の人のために開発されたもので、会話だけでなくナレーションのテキストや効果音、音楽の説明も含めた補足情報を文字情報として画面に表示するもの。視聴者側の設定で表示・非表示を切り替えられる。今では、話者の言語が理解できる/できないにかかわらずクローズド・キャプションを読むことを楽しむ視聴者が増えている。またオフィスや図書館など音を出せない場所での動画再生の際にも使用される。

吹替
翻訳した台詞やナレーションを声優が読み上げた音声を元の言語の音声に置き換えるもの。吹き替えといっても、映画やドラマなどの台詞のリップシンク(口の動きまで合わせるもの)から、報道やプレゼンテーションのナレーションのように解説を入れるものなど多岐にわたりますが、いずれも適切な同期が必要です。吹替制作は困難なので、映像翻訳を専門とする翻訳会社あるいは字幕制作サービス会社、吹替の経験のある声優、専門のスタジオおよびエンジニアなどが必要になります。

『イカゲーム』の誤訳が話題に

Netflixなどの動画配信サービスが、かつてないほどの量のドラマや映像を配信するようになり、字幕吹替制作サービスは繁忙期を迎えていると言われていますが、数の増加や厳しい納期によって品質が疎かになっているとの指摘もあります。Netflixの人気サバイバルドラマ『イカゲーム』では、映像字幕の質に注目が集まりちょっとした論争も起こりました。そもそもイカゲーム(오징어 게임)とは、韓国人ならみんなが知っている子供の頃に遊んだゲームだそうですが、タイトルからして文化的背景に触れるものです。ドラマを見る際、韓国語が分からない視聴者は、自分の分かる言語での吹替か、字幕か、クローズド・キャプションかを選択できます。英語でイカゲーム(Squid Game)を見ようとした場合、クローズド・キャプション(CC)と英語字幕のどちらかを選択することになりますが、この2つの翻訳に大きな違いがあったようです。イカゲームの英語CCは吹替のテキストと一致していたのですが、この翻訳に誤訳が多々あったことを視聴者が指摘しています。イカゲームの場合はCCよりも英語字幕の方が優れており、比喩的表現の誤りはあるものの、話者の発言の趣旨は(CCよりは)伝わっていたと書かれていますが、普段ドラマを見てるときに字幕とCCのテキスト比較などやりませんので、設定上で気づかずにCCの翻訳を見て誤訳に頭を悩ませるか、もとの韓国語の意図が掴めないままになってしまうかもしれません。脚本の台詞を翻訳する場合、字幕でもCCでも、文化的背景やその国独特の言い回し、ジョーク、ターゲット言語に相対する言葉が存在しない語など(性別や年齢に応じた特殊な呼称など)を考慮して制作する必要があるのです。

ストリーミングサービスや他のエンターテイメントビジネスによって動画が世界に向けて配信されるようになった今だからこそ、正確で質の高い映像翻訳が必要とされているのです。映像翻訳が必要な際には、その動画・映像の効果を最大限に発揮できるように、字幕翻訳・字幕制作を専門のサービスに依頼することをお勧めします。

「イカゲーム」の英語への翻訳について、コロンビア大学の韓国語教授が解説したYouTubeはこちら
韓国語学者が語る「イカゲーム」の翻訳の難しさ | WIRED.jp – YouTube

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