医療翻訳の難しさと注意すべき点

医療翻訳を正確に行うためには、注意すべきポイントがいくつかあります。他の分野の翻訳と同様、医療翻訳でも十分な専門知識や背景情報の調査が必要ですが、現在ではそうした情報も信頼できるウェブサイトや医学雑誌を参照することで比較的容易に入手できるようになっています。しかし医療翻訳には、特有の問題もあり、その理解なしには医療を必要とする人々にとって本当の意味で役立つ翻訳はできません。

対象となる読み手

医療翻訳が他の専門分野の翻訳と大きく異なる点は、読み手が誰であるかによって訳語やスペルを繊細に使い分ける必要があり、そうした見極めを慎重に行わなわなければならないということです。例えば、イタリア語においては一般語である “Varicella “(水ぼうそう)は、英語の専門用語 でも同じスペルで”Varicella “(水痘)と表記されることがありますが、患者など一般の人々を対象とした英文にする場合は、Chickenpox(水ぼうそう)とするのが妥当でしょう。また、英語の場合は特に、対象者がイギリスとアメリカのどちらの医学用語を使うかも重要です。例えば、アメリカ英語の血腫“hematoma”に対するイギリス英語“haematomas”など、スペルだけが違う場合もありますが、意味合いさえ変わってくることもあります。例えば“surgery”には「外科」の他、アメリカ英語では「手術室」という意味がありますが、イギリス英語では「診察室」、「診察時間」の意味がある、といったことです。

薬品名と婉曲表現

薬剤名には特に注意が必要で、薬剤の商品名とINN(International Nonproprietary Name=国際一般名)を区別して考えなければなりません。INNは世界保健機関(WHO)が医薬品の物質に対して指定した固有の名称で、医薬品の商品名とは異なります。例えば、商品名Tylenol(タイレノール®)をイタリア語に翻訳する際、INNを知っていれば、イタリアで該当する医薬品を識別することができます。また、「Tylenol(タイレノール®)」は「Paracetamol」というINNの一商品名であるということを分かっている翻訳者ならば、自身で必要に応じて「Tylenol(タイレノール®)」をイタリアで販売されている商品名「Tachipirina®」に置き換えることもできます。

さらに、医療の現場では婉曲表現が使われることも少なくありません。例えば、”to expire “(直訳すれば「満了する」)や “critically ill”(「極めて深刻な病状」)などといった言葉を使って、死や回復の見込みのないことを婉曲に表現することがあり、正確な翻訳をするため、医療翻訳者にはそうしたニュアンスを汲み取ることも求められます。

医療機器翻訳

医療機器に関する内容を翻訳する際に重要なのは、翻訳者に必要な資料を提供し、機器の使用法をしっかりと説明することで製品についての理解を深めてもらうことです。これにより、はじめて正確な翻訳が可能になります。お客様と翻訳者の間で、製品についての情報共有と学習のための時間を設けることは、一見効率の悪い作業のように思えますが、十全な理解こそが質の高いアウトプットをもたらすのです。ですから、翻訳者に製品を触れてもらうことも非常に有効です。どのような工程でどのように作られている製品なのか、実物がどのようなものなのかを把握することで、的確な翻訳が可能になるのです。

医療翻訳には、医療分野の高い専門性と広範な知識が不可欠なのです。

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