バックトランスレーション(逆翻訳)は、なぜ重要なのか

ビジネス文書を含むさまざまな文書の中でも取り扱いに注意を要する内容や慎重を期すべき文章の翻訳には、高い品質はもちろん、特別な配慮が求められることがあります。翻訳のプロセスは、翻訳者と校正・校閲者だけで完結している考えられがちですが、もう1ステップを加えることで、品質をさらに高めることができます。それが「バックトランスレーション(逆翻訳)」と呼ばれるプロセスです。一度翻訳した文章を元の言語に翻訳しなおすことによって、他では成し得ない品質チェックが可能になるため、現在では広く用いられるようになっています。

バックトランスレーションとは?

バックトランスレーション(逆翻訳)とは、翻訳された文書を、元の言語に翻訳し直す作業です。例えば、英語の原稿を日本語に翻訳した場合、別の翻訳者が日本語の訳文から英語への翻訳を再び行うものです。このとき、英語の原文を見ずに英訳し、原文と翻訳し直した文を比較することによって、訳文の精度を客観的に検証することができます。

バックトランスレーションの目的は、翻訳の精度の確認です。原文と逆翻訳を比較することで翻訳の品質を検証し、2つの文書に相違点があった場合にはそれを改めることで品質の改善を図ることが可能になります。また、お客様側で翻訳されたターゲット言語のチェックができない場合、チェックやレビューのために逆翻訳して、きちんと意味の伝わる翻訳となっているかを確認することも可能です。

バックトランスレーションの種類

バックトランスレーションには大きく分けて2種類あり、用途と求める品質に応じて使い分けられます。

シングルバックトランスレーション:このタイプのバックトランスレーションでは、お客様が原文と翻訳文のファイルを翻訳会社/言語サービスプロバイダー(LSP)に提出し、提供された翻訳文を元の言語に逆翻訳し、レビュアーがそれを原文と慎重に比較して、両者の間に矛盾がないか、訳文が原文の意味をきちんととらえて翻訳されているかどうかを検証します。この結果をまとめたレポートを作成し、原文と逆翻訳に相違がある箇所について翻訳文を修正することで原文の内容をより正確に反映させます。

ダブルバックトランスレーション:このタイプのバックトランスレーションでは、お客様が提出するのは原文ファイルのみです。翻訳会社/言語サービスプロバイダー(LSP)の翻訳者が、まず原文をターゲット言語に翻訳し、その後、シングルバックトランスレーションと同様の流れで、別の翻訳者が翻訳文を逆翻訳したものを比較・検証し、レポートの作成と翻訳文の修正を行います。

いずれの場合でも、お客様には逆翻訳を担当した翻訳者は原文を参照せず翻訳文のみを見て作業を行ったという証明書が送られます。これが、翻訳文の正確さの根拠となります。

どのような文章に有効か?

バックトランスレーションは翻訳に100%の正確さが求められるような場合に有効です。例えば、小さなミスが重大な結果をもたらすような、高精度の翻訳を必要とする文書に使われます。マーケティングや広告、製薬、医療など、幅広い業界でバックトランスレーションは活用されており、さまざまな規制要件の遵守や、文書の品質の向上に役立てられています。

バックトランスレーションが真価を発揮する文書には以下のようなものが挙げられます。

  • 薬の添付文書などの薬事関連文書
  • 臨床試験に関わるアンケートや同意書などの文書
  • 医療機器の説明書
  • 医療に関する同意書などの医療関係書類
  • 科学公式など、科学に関する記載
  • 財務報告書および監査資料
  • 契約書や訴状などの法的文書
  • 特許申請文書
  • 論文のように専門性の高い文章

バックトランスレーションの向き・不向き

業界に関わらず、バックトランスレーションを行うことで、意図通りの内容の文書が作成できているかを確認できます。また、翻訳の際に生じるミスや訳文で曖昧になっている点を特定し、修正することもできます。さらに、原文と訳文を比較したレポートが作成されるため、翻訳の品質の正確な把握も可能になります。

とはいえ、言語や内容によってバックトランスレーションの効果はまちまちです。専門性の高い文章、例えば、医療関連文書や論文のように単語の正確性が極めて重要な文章や、決まった用語(専門用語)を使用していないと正確性が問われるような文章へのバックトランスレーションは非常に意味のあるものとなりますし、その有効性は高くなります。一方で、文章の言い回しや読みやすさといった表現力を重視する文章には、バックトランスレーションが不向きなこともあります。実際に使用される文章は、翻訳後のターゲット言語で書かれたものになるわけなので、対象読者を忘れずにターゲット言語として訳文を評価・検証すべきです。

バックトランスレーションを行う際は、効果の有無や度合いを理解した上で行うことが大切です。また、バックトランスレーションのプロセスは複雑で高度な管理が必要であることから、発注する場合には、経験と実績のある翻訳会社/LSPを選ぶようにします。正しい理解と判断基準を持った上で、バックトランスレーションプロセスが確立できている業者に委託することで、翻訳プロジェクトを成功させてください。

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