動画のローカライズと活用法

インターネットを介した情報拡散が一般的になった現在、効果的なマルチメディアキャンペーンを展開するには、何が必要か。そのツールの1つとして注目されているのが、ターゲットに直接メッセージを届けられる動画(ビデオ)のローカライズです。ただし、動画であってもローカライズを行う際には、ターゲットに響くことと同時に、該当国の文化や習慣に適合していることが求められます。動画は、適切に使用すればユーザーの反応を引き出すだけでなく、売り上げを向上させるのに効果的なツールとなり得ます。
今回は、効果的な動画のローカライズに向けて、その重要性と方法についてみてみます。

なぜ動画をローカライズすることが重要か

動画を多言語に翻訳してローカライズする機会が増えていますが、動画のローカライズは手間隙のかかる作業と思われていませんか。場合によっては、ローカライズするより別言語の新しい動画を最初から作成するほうが早いのでは――と考えてしまいそうですが、それですべての問題を解決することはできません。全体の撮り直しには時間がかかるだけでなく、動画作成に必要な人員(俳優、プロデューサー、ディレクター、カメラチームなど)を再度集めるのにも多くの時間と労力がかかるでしょう。費用も考えなければなりません。既存の動画をローカライズすれば、出費を抑え、その分をマーケティングや調査などより重要な部分に費やすこともできます。早々に成果につなげたいのであれば、既存動画のローカライズを検討することは、十分に意義のあることです。

動画をローカライズするときに大切な要素と方法

世界中で視聴されているインターネット上の動画の数は急激に増加し、マーケティングにおける重要性も増しています。動画をローカライズする方法は幾つかありますが、ローカライズを検討するときに重要な次の3つの要素は共通です。

  • ローカライズに費やす時間
  • ローカライズに費やす予算
  • ローカライズすることによって得られる反応全般

これら3つの要素は、動画のローカライズを検討する際、どのような方法でコンテンツをローカライズするかを決めるために重要です。動画のローカライズする方法としては、以下の3つが挙げられます。

  • 字幕
  • 吹き替え
  • 文字起こし

字幕:

動画のローカライズとして一般的なのは「字幕」です。例えば、米国企業がメキシコに事業展開するのに、プロモーション動画を作成したとします。もとの動画は英語で作られているので、メキシコ向けにローカライズする場合は、内容をスペイン語に翻訳してその翻訳を字幕として挿入します。音声は元のまま情報をメキシコの顧客に届けることができます。

この作業で必要なのは、英語とスペイン語に堪能な翻訳者と動画編集者(ビデオエディター)です。言語によって文法構造が異なり、音声を直接翻訳しただけでは悲惨な結果となる可能性が高いので、動画音声の翻訳にGoogle翻訳のような機械翻訳を使用することはお勧めしません。文字言語ではなく音声言語の場合には、信頼できるスキルを持った映像翻訳者に依頼するのが得策です。字幕が悪い動画は、企業に深刻な悪影響を及ぼすだけでなく、企業の評価を下げてしまう可能性すらあるのです。字幕ができたら、次は編集者の作業です。画面に表示するテキストの色、配置、同期を決定します。動画に字幕を挿入することは、見かけほど簡単な作業ではないので、軽視すべきではありません。動画活用によって最良の効果を引き出したいのであれば専門技能を有した編集者が必要です。字幕を追加した場合は元の言語の音声が残っているので、それを聞いてわかる人もいるかもしれませんが、ターゲット市場の言語(ここではスペイン語)を文字情報として表示することで、より明確にメッセージを伝えることができます。同時に、ターゲット市場の言語(母国語)に敬意を払っていること、市場で成功したいと思っていることを示すこともできます。その一方で、元の言語の音声が理解されない、あるいは対象者のほとんどが字を読めないといった場合には、字幕は役に立ちません。発展途上国に事業を拡大するつもりであれば、ターゲット市場の識字率にも配慮する必要があります。識字率が世界の平均より低い国もあるからです。例えばパキスタンの識字率は約68%、ネパールでは66%です。このような場所に配信する動画のローカライズに字幕を選択してしまうと、メディアキャンペーンの効果に影響を及ぼすのは明白です。

吹き替え:

前述のように字幕が適さない場合でも有効なのが「吹き替え」です。吹き替えとは、元の言語の音声とは別に翻訳された言語の音声を録音して置き換える方法です。最も一般的な方法ではありますが、誤った使われ方をしていることも多々あります。吹き替え音声が適切でなくてもうまくいくこともありますが、やはり翻訳には十分な注意を払うべきでしょう。そして、吹き替えでは、元言語の発声の唇の動きに一致するように単語を選択させる「同期」も重要です。効果的な同期を行うためには、プロの声優(吹き替え話者)と共に、元の動画の流れに合わせて翻訳された言語の音声を適切に置き換えられるスキルのある編集者が必要です。

文字起こし:

「文字起こし」とは、動画ファイルの音声を聞き取って文字に書き起こすことです。動画の言語を翻訳して字幕を付ける場合の準備(翻訳用スクリプト作成のための文字起こし)としても有用です。また、動画を聞いて理解できたとしても、書かれた文字を読むことができれば一層分かりやすいという場合にも便利です。該当言語がネイティブではない人たちには聞き取りにくいアクセントがあったり方言が強かったりする場合、音声の内容が専門的で聞いただけでは理解できないような場合には、文字に書き写されているものがあると、分かりやすいでしょう。例えば、同じ英語でもオーストラリアのアクセントがあると聞き取り難いという人にも、書き起こしたテキストを見せることで、より正確に理解してもらえるようになります。つまり、音声を文字に書き起すことで、同じ言語であっても、より多くの人にメッセージを理解してもらえるようにできるのです。文字起こしの作業では、ただすべての音を書き出すのではなく、内容を正確に聞き取りつつ、不要な音(会話の合間の「えー」「あー」といった音)を削除したり、文章の意味が通るように整文したりすることも大切です。

動画のローカライズはどのように活用できるのか

すでに多くの業界、企業が動画を作成し、事業を展開する際には多言語にローカライズすることでマーケティングツールとして活用しています。メディアマーケティングにおいても、言語の翻訳だけでなく、対象国/対象市場の文化や社会、習慣、法律などに適したローカライズを行うことは不可欠です。それも踏まえて、字幕、吹き替え(音声の置き換え)、文字起こしといった伝達方法から最適なものを選ぶべきでしょう。動画は、視覚と聴覚の両方で情報を伝えることができるので、伝達力があります。ローカライズした動画を活用しやすい事業は、飲食業、電気通信業、自動車産業など多岐にわたりますが、商品やサービスの紹介だけでなく、重要な顧客や株主への情報伝達など幅広い利用方法が考えられます。いずれの場合でも動画をローカライズする目的や用途については事前に明確にしておき、適切なローカライズ方法を選択することで新たな市場での活用範囲を広げることに繋がるでしょう。


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