オーディオブックのローカライズで世界のリスナーを獲得する

オーディオブックの人気が急上昇する中、著者や出版社にとって、世界中のリスナーへリーチすることがますます重要になっています。オーディオブックをローカライズすることで、新しい市場への扉が開き、異なる言語や文化の聴き手とつながることが可能になります。


デジタルプラットフォームの世界的な普及に伴い、著者や出版社は多様な人々に向けたオーディオブックの翻訳やローカライズの必要性を認識するようになりました。


この記事では、オーディオブックのローカライズにまつわる様々な側面に目を向け、コンテンツビジネスにおいて翻訳サービスを必要されている方々へのヒントをご提供します。

世界のオーディオブック利用者数トップ

世界ではオーディオブックの利用者が増え続け、最近特にその人気が高まっています。現在、利用者数の多い上位3カ国はアメリカ、イギリス、ドイツです。スマートフォンが普及し、オーディオフォーマットで簡単に本を消費できるようになったため、世界中で利用者が大幅に伸びているのです。

Statistaによると、米国だけを見ても、オーディオブック販売額は2022年に18億ドルとなっており、2018年以来堅調に増加しつづけています。

オーディオブックのローカライズと書籍翻訳の違い

書籍の翻訳が、文字情報の翻訳であるのに対し、オーディオブックのローカライズでは、聴き手の体験にまで配慮した複数の作業が必要になります。オーディオブックのローカライズでは、文字情報の翻訳に加え、ナレーションの質や文化的な要素、音声収録・編集の際の技術的な側面に細やかに気を配りながら制作を行う必要があります。ローカライズが目指すのは、異なる言語や文化の聴き手が、違和感なくその世界にのめり込んでくれることです。

オーディオブックのローカライズプロセス各ステップ

オーディオブックのローカライズでは、高い品質の成果物を作り上げるため、各工程において高度な専門性が求められます。それぞれの工程を詳しく見ていきましょう:

原稿の確認

最初のステップでは、原作を徹底的に検証し、その内容や文化的な背景、含意されることがらを把握していきます。例えば、原語版のオーディオブックが、その国や地域の文化や社会などに関わる内容を含む場合、ローカライズ版において、アダプテーション=翻案が必要なのかどうかを判断する上でもそうした要素を特定しておく必要があります。

  • 例:例えば、オリジナルのアメリカ版で「感謝祭(Thanksgiving)」について言及されている部分をイギリス版にローカライズする際、内容によっては「ガイ・フォークス・ナイト(Guy Fawkes Night)」などに翻案した方が良い場合もあるでしょう。具体的な祝祭の名前が重要な場合と例示的に言及されているだけの場合で翻案すべきかどうかの判断は変わってきす。

ナレーターのキャスティング

品質の高いオーディオブックの制作には、適切なナレーターのキャスティングが不可欠です。発話のスキルや、声質、感情を正確に伝える能力など、様々な要素を総合的に考慮して選定します。映像やオーディオの翻訳・ローカライズを専門的に扱う会社に依頼すれば、現地のナレーターや録音スタジオの手配も行ってくれます。

  • 例: 例えば、オーディオブックのジャンルがホラーの場合、ナレーターは恐怖や緊迫感を掻き立てなければなりません。ロボットのような単調な声では聴き手を惹きつけられず、物語のインパクトも弱まってしまいます。語りのペースや声量、抑揚などを巧みに調節しながら、場面を盛り上げられるようなナレーターが理想です。
  • 不気味な雰囲気を醸し出し、登場人物の内面のおののきを描写して胸騒ぎをさせてくれるようなナレーターが物語に命を吹き込むのです。
  • プロのナレーターの多くが、サンプルの音源を公開しています。キャスティングの際には、こうしたデモ音源、サンプル音源を利用してそれぞれのプロジェクトにふさわしいナレーターや声優が配役されます。ナレーター・声優が、オーディオブックの聴取体験を大きく左右するため、キャスティングのプロセスは非常に重要です。

文化的背景を加味した意訳

オーディオブックでも、文化的背景の説明抜きに直訳しても意味が伝わらない内容が含まれる場合があります。特にオーディオブックには注釈・脚注などを入れることができないため、こうした部分を聴き手がスムーズに理解できるよう翻案が行われます。

  • 例:オリジナル版のオーディオブックで、その国や地域に住む人だけに分かる料理についての言及がある場合、ローカライズ版では、それを対象地域の人々に馴染みのある料理に置き換えることがあるでしょう。また、スーパーボウルのようなアメリカ特有のイベントへの言及は、各国で一番盛り上がるスポーツイベントに置き換えられることもあるでしょう。

ポストプロダクションと各種オーディオフォーマットへの変換

オーディオブックのローカライズでは、収録した音声を、その言語を理解するサウンドエンジニアが編集や加工を行います。また各種のプラットフォームやデバイスに適したオーディオフォーマットへの変換も行われます。

  • 例:ポストプロダクションでは、聴き手にとって快適な視聴体験をもたらすために、オーディオレベルの調整が行われます。また、利用者にオーディオブックの世界に没入してもらうため、音楽や環境音を加えるなど、文化に合わせた音響効果の調整が行われることもあります。

品質保証と編集

多くの場合、最後にもう一度、品質チェックと編集が行われます。これには、翻訳テキストの再校正、正確で自然な言葉になっているかの確認、音声品質チェックなどが含まれます。

  • 例: ローカライズ版の音声を何度も聴き直し、見落とされた言葉のミスや矛盾をチェックします。この品質チェックプロセスを、ターゲット言語のネイティブスピーカーが行えば、文法や発音、イントネーションが正しいだけでなく、その国や地域の文化に鑑みて問題ないかもチェックすることができるでしょう。

オーディオブックのローカライズにおける課題

オーディオブックのローカライズには以下のような様々な課題があります。

  1. 言葉の響きやアクセント: 言葉の響きやアクセントが、時として物語の深みに大きく作用します。翻訳者やナレーターは、原作の意図を損なわないために、こうした繊細な要素に意識的でなければなりません。収録時や収録後にもそうした細やかな部分がチェックされます。
  2. 複数の登場人物の声: オーディオブックで、複雑な会話や、複数の登場人物が登場することは少なくありません。翻訳の際には、人物の個性を把握し、ストーリーの整合性を保つ必要がありますし、1人のナレーターが全てを読み上げる場合は演じ分けられるテクニックが必要です。
  3. ターゲット・マーケットにコンテンツを適合させる: 市場ごとに、それぞれの文化的、言語的嗜好があります。ローカライズでは、そうした嗜好に合わせた調整が重要で、オーディエンスの期待と好みの理解が不可欠なのです。
  4. 視覚障害者のためのアクセシビリティの確保: オーディオブックは、視覚障害のあるリスナーが文学にアクセスできるようにする上でも重要なメディアです。オーディオブックをローカライズする際には、説明的なナレーション、明瞭な発音、視覚障害者の理解を助ける音声フォーマットなど、アクセシビリティについての考慮も必要になります。

オーディオブックのローカライズのメリット

オーディオブックのローカライズは、著者、出版社、そしてリスナーに複数のメリットをもたらします。例えば以下のようなものです。

  • リーチの拡大: オーディオブックをローカライズすることで、著者や出版社は単一言語を超えた新しい市場に参入し、世界中の多様なリスナー層とつながることができます。
  • 収益の増加: ローカライズによって異なる言語市場に対応することで、より幅広いオーディエンスを獲得し、収益の可能性を高めます。
  • リスナーとのつながり: リスナーの母国語でオーディオブックを提供することで、確固たるファン層が生まれ、より深いつながりとエンゲージメントを育まれます。
  • 体験の向上: ローカライズにより、文化的に自然で適切な言葉遣いやニュアンスによって、リスナーがオーディオブックに引き込まれ、楽しめるようになります。
  • 各国の文化への対応:文化的背景に合わせたローカライズで、ターゲットオーディエンスに共鳴してもらえるコンテンツを作り出し、訴求力を高めます。

ローカライズに成功したオーディオブックの例

ローカライゼーションに成功したオーディオブックの例をいくつか紹介します:

  1. パウロ・コエーリョ著『アルケミスト』。多言語で翻訳され、ナレーションされたこのベストセラー小説は、世界中の聴衆を魅了し、コエーリョのストーリーテリングの魔法を体験させています。
  2. J.K.ローリング著『ハリー・ポッター』シリーズ。多数の言語で才能ある声優たちがナレーションを担当するこの人気シリーズは、何百万人ものリスナーをホグワーツの魅惑的な世界へといざなっています。
  3. タラ・ウェストーバー著『エデュケーション 大学は私の人生を変えた』 。この説得力のある回顧録は、力強い語り口と回復力の探求で国際的な称賛を得ましたが、オーディオブック版も多言語にローカライズされており、様々な背景を持つリスナーに、タラ・ウェストーバーの自己発見と教育との出会いに触れることができます。
  4. ディーリア・オーウェンズ著『ザリガニの鳴くところ』。このニューヨーク・タイムズ紙のベストセラー小説は、雰囲気のある語り口と魅力的なキャラクターで読者を魅了しあしたが、オーディオブックのローカライズも成功しています。世界中のリスナーが湿地帯の心を揺さぶる美しさと、主人公カイヤの決意の物語に魅了されます。

まとめ

多くのリスナーにリーチし、没入感のある視聴体験を提供する上で、オーディオブックのローカライズは、非常に重要です。そのためには、各工程を細やかに行い、オリジナル言語のエッセンスを、確実にターゲットとなる人々へと届けます。細部への配慮と、文化的な配慮が、リスニング体験を向上させ、リスナーが違和感なく楽しめるものを生み出すのです。
オーディオブックの需要が伸び続ける中、その翻訳とローカライズを専門的に行うサービスを利用することで、著者、出版社、リスナーには新たな機会が生まれるでしょう。
クリムゾン・ジャパンでも、文化的な言及の翻案からオリジナル版のエッセンスの取り込みまで、単なる翻訳にとどまらない、ローカライズ版オーディオブックの制作を行っています。オーディオブックの言葉の壁を取り払い、コンテンツのグローバルな可能性を引き出すお手伝いいたします。
クリムゾン・ジャパンの言語ソリューションは、著者、出版社関係者、コンテンツ制作者の皆様が、海外市場に進出するサポートをいたします。ローカライズによってオーディオブックの可能性がどれだけ広がるか、ぜひ一度ご相談ください。

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