音声ユーザー・インターフェース(VUI)・ローカライズの課題

前回の記事では、声ユーザー・インターフェース(Voice User Interface:VUI)のローカライズの利点について解説しました。今回は、VUIローカライズの過程で起こりうる課題と、それを克服しスムーズで包括的なユーザー・エクスペリエンスを実現する方法を探ります。

VUIの作成における課題を深く掘り下げた上で、すでに素晴らしい成功をおさめたVUIローカライズの事例を紹介します。ぜひ、この記事で様々なヒントを探ってください。

VUIローカライズにおける主な課題とソリューション

あらゆる技術の進歩と同様に、VUIのローカライズにも課題がつきものです。VUIローカライズにおいて障害となる事柄と、その解決策をご紹介します。

多言語音声認識

VUIのローカライズにおける最も重要な課題の1つは、複数の言語、アクセント、方言を正確に音声認識できるようにすることです。アクセントや発音の違いのために音声コマンドが誤って解釈されると、ユーザー・エクスペリエンスの質は低下します。

例 )カナダのフランス語圏のユーザーは、”o “や “u “のような特定の英語の母音で問題に遭遇する可能性があります。例えば、”go “という単語などは”o”の発音が強調される傾向があり、誤って認識されることがあります。

  • 解決策- ネイティブスピーカーや専門家との協力: 開発段階でネイティブスピーカーや言語の専門家と協力することで、多言語音声認識を大幅に改善することができます。専門家が提供する、様々な地域のアクセントや発音のバリエーション、口語表現に関するデータを元に、音声認識アルゴリズムを微調整します。

文化的ニュアンスと文脈

VUIのローカライズには、ユーモア、慣用的な表現、デリケートな話題など、文化的なニュアンスへの理解と対処が必要となります。誤った返答や、無神経と取られる返答は、不快感や混乱を引き起こす可能性があります。

例 )ビジネス用の多言語VUIシステムにおいて、西洋文化圏のユーザーであれば、”How’s business? “というフレーズで企業の状況について問い合わせるかもしれません。しかし、一部のアジア文化においては、ビジネスに関するこのような直截的な問いは、不躾と捉えられることがあります。

  • 解決策- 文化に配慮したコンテンツ制作:課題克服のために、VUIのローカライズチームには、ターゲット文化のエキスパートを入れるべきです。それにより、コンテンツの文化面、文脈面の適切さを確保し、不快感や混乱を引き起こす可能性のある誤った応答を避けるのです。

音声合成の自然さ

音声合成がリアルで自然であることで、ユーザーエクスペリエンスは向上します。トーン、イントネーション、明瞭さの適切なバランスを達成することは、特に発話パターンが多岐に渡る言語では難しい場合があります。

  • 解決策-高度な音声合成技術とネイティブスピーカー の発話サンプル:様々なパターンの自然な発話を提供する高度な音声合成テクノロジーを組み入れることで、ユーザー・エクスペリエンスは向上します。さらに、ネイティブスピーカーによる多くの音声サンプルによって音声合成アルゴリズムに調整を加えることで、VUIに本物らしさが生まれます。

VUIローカライズにおける、この他の課題と解決策をみてみましょう。

  • -多言語でのテストと評価: 音声ユーザー・インターフェース(VUI)の多言語テストと評価は、ローカライズプロセスにおいて、各言語の問題を特定・修正し、すべての言語において完璧な機能性を確保する上で非常に重要です。言語の専門家やネイティブスピーカーによる厳密なテストを通じて、正確な音声認識、文脈を考慮した応答、文化に配慮した対話を実現できます。
  • 正確な音声認識: ユーザー・エクスペリエンスを向上させるためには、様々な言語の音声コマンドを正確に解釈するための正確な音声認識アルゴリズムの開発が必須です。
  • データに基づくローカライズ: VUIをローカライズすることで、多様な市場における顧客の嗜好、言語使用パターン、ユーザー行動に関する貴重なデータが蓄積します。このデータを分析してアップデートに組み入れることで、各言語市場に合わせた体験の提供も可能となります。

VUIのローカライズは、幅広い分野のビジネスやサービスにとって大きなメリットがあります

  1. Eコマース・プラットフォーム :VUIをローカライズしてユーザー・エクスペリエンスと操作性が向上すれば、顧客エンゲージメントと売上の向上につながります。例えば、Amazonの Alexaや、Googleアシスタントなどが好例です。
  2. グローバル・テック・ジャイアント: テック企業が、自社製品にシームレスでローカライズされたVUIを採り入れることで、多様な言語を話す人々をユーザーとして囲い込めます。
  3. 自動車メーカー: VUIのローカライズにより、様々な国や地域での自動車の操作性が改善され、安全性の向上にもつながります。
  4. 医療・ヘルスケア分野: 医療機器、アプリ、または遠隔医療プラットフォームのVUIをローカライズすることにより、様々な言語を母語とする患者・ユーザーが、医療やサービスにアクセスできるようになります。
  5. エンターテインメント業界: ゲーム会社やストリーミング・プラットフォームでは、VUIのローカライズを通じ、世界中のユーザーに没入感のある体験を提供できます。
  6. 旅行とホスピタリティ業界: VUIのローカライズにより、ホテル、航空会社、旅行アプリの旅行体験も向上します。
  7. 金融: VUIのローカライズにより、多様なグローバル顧客にとって、取引や口座照会をはじめとしたサービスが利用しやすくなります。

さまざまな業界の企業が、VUIのローカライズによって、ユーザー・エクスペリエンス、エンゲージメント、アクセシビリティを向上させる実例はこの他にも数多くあります。

VUIローカライズの成功事例

事例1:Amazon Echoの日本におけるローカライズ

Amazon Echoの日本市場への参入は、VUIローカライズの顕著な成功例です。英語と日本語の言語構造や文化的背景の違いから、VUIを英語から日本語にローカライズすることは容易ではありません。敬語表現を使いこなすことができ、礼節をわきまえたインターフェースにすることが日本語版のローからライズにおいて重要性であることをAmazonは認識していました。
これらの課題を克服するために、英語と日本語のネイティブの翻訳者やライター、監修者、日本で活動する声優などによって、正確で文脈に即した応答ができる日本語版インターフェースを作り上げました。ユーザーとデバイスの関係性をユーザーの発話に基づいて判断し、ふさわしい応答ができるようプログラムしたのです。例えば、ユーザーがリマインダーの設定を敬語で依頼すると、VUIも敬語で応答するといったように、日本語話者同士の自然な対話ができるようになっています。

こうしたローカライズを経てAmazonのAlexaとそれを搭載したAmazon Echoは、日本の消費者に受け入れられ、日本市場で大きなシェアを獲得しました。

事例2:インドにおけるGoogleアシスタントのローカライズ

インドにおけるGoogleアシスタントの成功は、多様な言語が使われる国でのVUIのローカライズの好事例です。インドには22の公用語をはじめとした多数の言語が存在するため、ローカライズのプロセスは非常に複雑になります。
Googleは、インド市場の可能性とその言語的多様性に対する必要性を認識していましたた。そして多様な言語に対応するインターフェースとするため、インド各地の言語の専門家を起用しました。ヒンディー語、ベンガル語、タミル語、テルグ語をはじめとした言語を理解するようにVUIを調整しました。同じ言語でも、方言や会話表現にも応じられるようにプログラムされ、文脈に即した受け答えができるようになったのです。
その結果、インド版Googleアシスタントは、同国のユーザーの圧倒的な支持を得ました。各地の言語に対応することで、Googleは高いエンゲージメントを生み出しました。

効果的なVUIのローカライズにより、Googleはインド市場における優位な地歩を固めたのです。

まとめ

この記事では、VUIのローカライズが何をもたらすか、そして、様々な言語や文化にまたがる包括的なユーザー体験を促進することのメリットについての解説しました。クリムゾンジャパンでは、企業ごとの課題に対処した、VUI ローカライズのサポートを行っています。多言語での綿密なテスト、正確な音声認識の実現、データに基づいたプログラミングにより、VUI が世界中のユーザーにパーソナライズされた質の高い体験を提供します。

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