医療における手話通訳の重要性

世界保健機関の調査によると、世界の15億人以上が難聴とされます。世界の人口の約2割が難聴なのです。このうちリハビリを必要とするのが4億3000万人で、2050年までには7億人に増えると予測されています。これは世界的な喫緊の課題です。しかし、現時点では、医療現場で難聴の人々のニーズに応える取り組みはあまり行われていません。

この記事では、聴覚に障害を持つ人々にとっての貴重な意思疎通手段である手話の重要性と、医療現場で手話を使うことのメリットや課題を探ります。

聴覚障害者にとっての手話

手話は、話し言葉とは異なる独自の文法や語彙を備えた体系的な言語で、聴覚に障害を抱える人々にとっては命綱とも言えます。他の言語がそうであるように、情報の取得や自己表現において大きな役割を果たすのです。さらに、自らの権利や平等を主張する上でも、安心してしかるべき医療を受ける上でも欠かすことができません。

医療現場における課題

難聴の人々、聴覚に障害を持つ人々が医療現場で大きな壁に直面することは少なくありません。コミュニケーションや技術・情報へのアクセスの障壁、そしてそれによってしかるべき権利を行使できないという課題です。これは通院を続けることへの心理的な妨げにもなり、治療の質も下げかねません。

  • 意思の疎通:難聴の人々の多くは、手話や筆談によってコミュニケーションを行いますが、手話を使いこなす医療従事者は少数派で、現場において十分な筆談が行われる時間的余裕がないこともあるため、病状に関する正確な情報が本人に届かないことがあります。手話通訳者がいない場合や手話通訳者の能力が不十分な場合、治療費や治療方法などの複雑な内容を理解した上で意思を示すことも難しいのです。
  • 技術へのアクセス: 世界各国でインターネットを通じた遠隔医療の導入が進んでおり、緊急時に役立っています。しかし残念ながら、現状では多くの遠隔医療技術は、聴覚障害者にとって使いやすいものとはなっておらず、インクルーシブな技術となるには改善の余地があります。
  • 法的・倫理的な問題: どんな治療も、正しい情報に基づいた決定が最初の一歩です。意思疎通・コミュニケーションの壁により、難聴の人々が治療上の選択肢を充分理解できない場合、情報に基づく同意 (インフォームド・コンセント) に関する法的・倫理的な問題が生じる可能性があります。

手話通訳を用いたインクルーシブな医療

手話通訳は、様々な場面で役立ちます。医療現場においても、手話通訳が介在することによって医療従事者と聴覚に障害を持つ患者の意思疎通がよりスムーズになります。

  • 手話通訳により、聴覚障害者は病歴と症状を医師に的確に伝えることができます。こうした情報は正確な診断には不可欠で、緊急時には特に重要です。
  • 手話通訳が入ることで、聴覚に障害を持つ人々も、情報に基づいた決定を行うことが可能となります。複数の選択肢のリスクと利益を理解し、比較検討できるのです。
  • また、手話通訳により薬の服用量や効果の持続時間についての理解も深まります。これにより、用法用量を誤るリスクは低減できます。

医師の間で効果的な意思疎通ができれば、難聴の人も難聴でない人も同じ水準の医療が受けられます。効果的な意思疎通により、誤解の可能性は減り、提供される治療の質は上がります。また、治療計画に従いやすくなるため、より良い治療結果が期待できます。

国によっては、聴覚障害者が医療現場で手話通訳を利用できる法的な根拠もあります。

たとえば米国では、1990年に制定された「障害を持つアメリカ人法」(Americans with Disabilities Act, ADA) により、医療の提供者に、聴覚に障害を持つ人々とあらゆる手段で効果的な意思疎通を行う義務が課せられます。患者と長時間にわたる複雑なやりとりをする場合、手話通訳者を確保する必要性は高まります。たとえば、病歴についての話をする、情報に基づいた同意をする、治療の許可を得る、といった場合です。

効果的な意思疎通を促す手段には、適格な手話通訳者だけでなく、発話内容を瞬時に字幕表示する仕組みや、遠隔通訳など、あらゆるものが含まれます。また「障害を持つアメリカ人法」では、聴覚言語を理解するために必要なツールやサービスによる支援も求められます。手話通訳者の他、補聴器、音声言語の書き起こし、テレビ番組のキャプション、聴覚障害者が使いやすい通信機器などです。

同法によると、手話通訳者には、聴覚障害者の意図を理解して通訳する能力と、聴覚障害者に情報を正確に伝える能力が求められます。医療の現場では、たとえば、医師が患者に病歴を聞く、患者に病状を伝える、治療上の様々な選択肢を説明する、同意を求める、薬を処方について説明する、といった場面でこうした能力が欠かせません。

医療現場において意思疎通ができない事の危険性

診断の初めに行うべきことは、医療関係者と患者とのコミュニケーションです。そして患者が聴覚に障害を持つ場合、診察の際に手話通訳者がいなければ、意思の疎通が難しくなることもあります。

  • 病歴の確認ができなければ、正確な診断ができなくなることもあります。また、薬の飲み合わせも健康リスクに関わるため、医師は患者が服用中の薬を正確に聞き出し、適切な処方を行う必要があります。
  • 患者のアレルギーも、医師が把握しておくべき重要です。ペニシリンやナッツアへのアレルギーなど、命にかかわるものもあるため、患者が聴覚障害を持つ場合、手話通訳その他の手段によってアレルギーについての情報を聞き出すことが求められます。
  • 治療法については、患者に対し事前に潜在的なリスクを説明しておくことが重要です。患者が情報に基づいて、決定と合意を行わなければならないからです。
  • 治療についての十分な情報提供は、患者の不安感を減らす意味でも重要です。聴覚が不自由な人々は、手話通訳が立ち会わない医療現場でストレスを感じることもあるでしょう。
  • また、薬の用法用量を含む様々な指示を患者に理解してもらうことも、効果的な治療にとって重要です。

まとめ

医療へのアクセスは基本的人権であり、障害のあるなしに関わらず、すべての人に保障されるべきです。残念ながら、現在の医療現場においては、難聴の人々が医療従事者との間でスムーズな意思疎通を行い適切な医療を受けるための手段は十分とは言えません。医療においては、些細な誤解も深刻な結果につながりかねないため、これは憂慮すべき状況です。この喫緊の課題に対する解決策のひとつが、医療施設に専門的な手話通訳サービスを広く導入することです。手話通訳者が、正確に情報のやり取りを円滑に行うサポートを行うことが、医療の質の向上につながります。

Leave A Reply

Your email address will not be published.

お気軽にお問い合わせください

toiawase@crimsonjapan.co.jp