
若者言葉は世界共通?各国のスラング事情
「それな」「エモい」「ガチで」。
日本の若者言葉は、次々と新しい表現が生まれては消えていきます。実はこうした現象は日本語に限らず、世界中のあらゆる言語で見られる普遍的なものです。今回は「世界のコトバ事情」として、若者言葉・スラングという切り口から、ことばの移り変わりを見ていきます。
若者言葉は仲間意識をつくる「集団語」
編集者・評論家の松岡正剛氏は、国語学者・米川明彦氏の『集団語辞典』についての書評の中で、若者言葉のような特定集団の言葉を「集団語」と位置づけています。
業界用語や隠語が豊富な集団ほど、仲間内の結束が強いとされ、こうした言葉は単なる語彙以上に、集団の連帯感や価値観を伝える「ミーム」のような働きを持つと説明されています。若者言葉も、仲間内にしか通じない表現を共有することで、「われわれ意識」を強める役割を果たしているのです。
日本の若者言葉に見られるパターン
日本の若者言葉には、いくつかの共通したつくり方があります。「り」(了解)のような極端な略語化、「エモい」のように外来語や名詞に「い」を付けて形容詞化する手法、「ガチ」のように強調表現として定着する言葉などです。
他にも、単語の一部を入れ替えたり、語尾を伸ばしたりすることで新しいニュアンスを生み出す手法もよく使われます。文法的な正しさよりも、仲間内での通じやすさや語感のおもしろさが優先される点が、若者言葉らしいところです。
こうした言葉は、テレビやSNSをきっかけに一気に広まる一方、数年で使われなくなり「死語」となっていくものも少なくありません。移り変わりの速さそのものが、若者言葉の大きな特徴だといえます。
かつては学校やテレビ番組が発信源になることが多かった若者言葉ですが、今ではSNS上の投稿や動画配信サービスが主な発信源になっており、広がるスピードも以前とは比べものにならないほど速くなっているのです。
韓国にも独自の若者言葉文化がある
お隣の韓国にも、若者世代(MZ세대)を中心に独自のスラング文化があります。既存の単語を短く縮めたり、複数の単語の頭文字だけを取り出したりして新しい言葉をつくる手法が多く見られ、日本の「り」「あーね」のような極端な省略と似た発想がうかがえます。
こうした略語は仲間内のチャットやSNSのコメント欄で特に多用され、年配の世代にはまったく意味が通じないことも珍しくありません。省略や略語によって新しい言葉を生み出すという発想は、言語の壁を越えて驚くほど共通しているようです。
SNS時代は「世界共通スラング」も生まれる
近年はSNSの普及により、国境を越えて広まるスラングも登場しています。
英語学習メディアのENGLISH JOURNALによれば、オックスフォード大学出版局が選ぶ「2023年の言葉」には、「魅力」を意味するスラング「rizz」が選出されました。もとはカリスマ(charisma)の中間部分から生まれたインターネットスラングで、TikTokなどのSNSをきっかけに、英語圏だけでなく世界中の若者に広まったといわれています。
従来、若者言葉は国や言語ごとに独自の進化を遂げるものでした。しかしSNSで動画や投稿が瞬時に世界中へ拡散される時代になり、特定の国で生まれた言葉が、翻訳や意訳を経ずにそのまま各国の若者の間で使われる、という新しい現象が起きています。
日本の若者の間でも、英語圏発のインターネットスラングがそのままカタカナ語として使われる例が増えており、若者言葉における国と国との境界が、これまで以上に低くなっていることがうかがえます。
スラングは翻訳者にとっても悩みの種
若者言葉やスラングは、規範的な文法・語彙から自由であることが特徴であるだけに、他言語に翻訳する際には特有の難しさがあります。辞書に載っていない言葉も多く、文字どおりに訳すと意味が通じなかったり、ニュアンスが伝わらなかったりすることも珍しくありません。逆に、訳文で無理にスラングを使おうとすると、かえって不自然な言い回しになってしまうこともあります。
さらに流行の移り変わりが早いため、数年前の翻訳が今読むと古く感じられることもあります。ゲームや動画配信、SNS発信など、若い世代をターゲットにしたコンテンツほど、こうした「今の言葉」を捉える感覚が求められます。
生きたことばのニュアンスを踏まえた翻訳サービスを選べるかどうかは、若い世代向けのコンテンツを海外展開する際の重要なポイントになります。
まとめ
若者言葉やスラングは、単なる流行語ではなく、仲間意識や世代の価値観を映し出す「集団語」です。日本語にも英語にも韓国語にも、それぞれの若者文化に根差した言葉の生まれ方がありますが、SNSの普及によって、国境を越えて広まる新しいタイプのスラングも生まれています。
移り変わりの速い若者言葉やネットスラングを海外向けに発信する際には、最新の言語感覚を踏まえた翻訳会社に相談してみるのもよいでしょう。



