トランスクリエーション:良質な多言語コンテンツ作成

新しい市場でブランドを展開するには、綿密なローカライズ戦略が必要です。翻訳は、現地のオーディエンスにメッセージを伝えるための第一歩ですが、それだけでは十分ではありません。ターゲットとなる地域の文化や流行を考慮した調整を行わなければ、メッセージは正確に伝わりません。特に、書籍や広告などの クリエイティブなコンテンツは、直訳しただけでは意図が伝わりません。そこで重要になってくるのが「Transcreation=トランスクリエーション」です。例えば、ターゲットに合わせた口語表現や響きの良い言葉を取り入れるなど、インパクトのあるキャッチフレーズや文章を作り、 マーケティングを行うといった作業です。

トランスクリエーションとトランスレーション(翻訳)の違いとは

翻訳とは、ある言語で記述・発話された内容を別の言語に置き換えることです。可能な限り近い意味にして伝えることが目的です。一方、トランスクリエーション(Transcreation)は、「翻訳(translation)」と「創作(creation)」を組み合わせた造語で、特に広告やブランディングにおいて活用されます。ここでは、単語や文のレベルでの言葉の意味ではなく、その背後にある意図、メッセージの伝達に重きを置きます。トランスクリエーションの特徴を翻訳との違いから見ていきましょう。

  • 原文との距離:一般的な翻訳では、元文を単語や文のレベルで別の言語に置き換えます。一方のトランスクリエーションは、単なる翻訳ではなく、ターゲット言語でのコンテンツ作成という側面が大きくなります。原文のメッセージ性や、作成したものをどのように使うか等を加味したコピーライティング的な要素が強いのです。
  • クリエイティブブリーフ: 翻訳は、対象となる文書などがあれば行えますが、マーケティングやキャンペーンのトランスクリエーションを行うには、全体のコンセプトや目的、求められる成果を理解するための情報が必要です。それをまとめたものが、クリエイティブブリーフ(企画資料)と呼ばれるものです。
  • トランスレーターとトランスクリエーターの違い:翻訳者(translator)が行うのは、ある言語の内容を別の言語に置き換えることです。トランスクリエーター(transcreator)は、場合によってはアイデア出しから、コンセプト作り、コピーライティングなどのクリエイティブな作業を行い、DTPなどの実務にも関わることもあります。

トランスクリエーションが必要な理由

トランスクリエーションにより、さまざまな目的を達成できます。トランスクリエーションとはどのようなものかが分かる例を挙げてみましょう。

  1. ブランディングと広告: 自国の文化において成功を修めたブランディングが、他の言語に翻訳されたときにうまく機能しないことがあります。例えば、ペプシが「Come Alive with the Pepsi Generation(ペプシ・ジェネレーションと共に奮い立て)」というキャッチコピーを中国向けに翻訳したところ、「ペプシは祖先を墓場からよみがえらせる」という意味になってしまったという失敗が有名です。
    グローバルにブランド展開を行うには、直訳ではなくトランスクリエーションによる独創的なコピーライティングが必要なのです。
  2. コミック: トランスクリエーションの例として広く知られているのが、スパイダーマンのコミックをインドの読者向けにアレンジしたものです。Gotham Entertainment Groupが制作したインド版スパイダーマンでは、ピーター・パーカーではなく、ドウティ(ヒンドゥー教徒の男性が着用する腰布)を着たパヴィトル・プラバカールというキャラクターがスパイダーマンです。舞台はムンバイで、敵はグリーン・ゴブリンではなく、悪魔ラクシャーサなどです。現地に適応させたキャラクターにより、コミックの売上を伸ばし、熱心なファン層を作り上げるのが狙いです。
  3. 音声・映像翻訳:トランスクリエーションは、音声・映像翻訳の分野で、特に配信プラットフォームの出現と国を跨いでコンテンツが利用可能になったことによって、ますます重要性を増しています。例えば、日本の漫画が原作のNetflixシリーズ『今際の国のアリス』の英語タイトルは『Alice in Borderland(境界地帯のアリス)』です。英語圏の視聴者にも親しみやすいよう、キャラクター名の「有栖」は、ルイス・キャロルの『不思議の国のアリス』にちなんで「Alice」という表記になっています。
  4. ゲーム:近年、ビデオゲームやモバイルゲーム業界は大きな成長を遂げており、トランスクリエーションが必要な機会も非常に多くなっています。ゲームにおけるトランスクリエーションでは、キャラクター名、ストーリー、場所などのゲーム内の要素や、音声、動画、テキストなどを地域に合わせて調整し、プレイヤーに没入してもらえる工夫をします。例えば、『Subway Surfers』というモバイルゲームは、東京、サンフランシスコ、ムンバイなど様々な地域にローカライズされ、各国の人々が親近感をもってプレーできるようになっています。

トランスクリエーションの工程

一般的な翻訳とは異なり、トランスクリエーションには様々な工程があります。ここでは、トランスクリエーションに関わる主なステップを説明します。

  • 市場調査: 特定の地域に向けてトランスクリエーションを行う場合、まず、包括的な市場調査を実施することが重要です。文化習慣、可処分所得、購買パターン、消費者ニーズなど、ターゲット市場に関する詳しい情報を得ることで、クリエイティブブリーフとコンテンツの作成の土台を築くのです。
  • クリエイティブブリーフの作成: クリエイティブブリーフ(企画資料)は、トランスクリエーターの作業指針となるもので、製品やサービス、ターゲット層、コンテンツのトーンやスタイル、文化や言語に関する考慮事項などの情報が含まれます。原語のコンテンツの本質的な部分を残したまま、ターゲット言語の人々に効果的に伝わる文化的に適切なコンテンツを作り上げるには、優れたクリエイティブブリーフが欠かせません。
  • 言語サービスプロバイダーの利用:トランスクリエーションを専門的に行う会社を利用することには、さまざまな利点があります。こうした会社では、言語と文化の専門知識を持つ専門スタッフのチームが、ターゲット層の心に響くコンテンツを作成します。言語と文化の専門知識は、正確で適切なトランスクリエーションを行う上で極めて重要です。また、適正な会社であれば、基準を満たすための品質保証プロセスも備えています。
  • 時間とコストの考慮: トランスクリエーションを専門会社にアウトソースすれば、経済的にもメリットがあります。専門会社では、市場調査からトランスクリエーション、品質保証まで、エンドツーエンドのサービスを提供するため、時間とコストを節約することができるのです。
  • リリース前の事前確認:コンテンツや広告を発売・公開する前に、それが正確で現地において適切と捉えられるかを確認することも重要です。言語面、文化面の問題があれば、それを事前に修正します。

まとめ

詳細な計画に基づき適切に行われたトランスクリエーションは、新たな国や地域におけるブランドや製品・サービスの認知度・ユーザー満足度の向上をもたらします。新規市場への進出を計画している企業がターゲット層との深い結びつきを求めるのであれば、質の高いローカライズサービスを提供する専門会社を利用することが望ましいでしょう。

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